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今年の初めからアジアの鈍行列車に乗って旅をするという取材を続けている。

旅行作家の下川裕冶さんが文章を書き、僕が写真を撮る。

今のところこのサイトでもリンクをはっている、アサヒコムの「どらく」という場所で連載させてもらっている。

その旅の流れで、今回はフィリピンの国鉄に乗ろうということになった。

しかし事前に調べてみたところ、フィリピンの国鉄はここ数年で大幅に縮小、ほとんどが廃線状態になっているということがわかった。

最新の情報が乏しく、今現在の事情はほとんど掴めない。

それならばとりあえず行ってみようということで、我々はマニラへ向かった。

実際フィリピンの国鉄は縮小の一途にある。つい最近も路線が広ひとつ閉鎖されたらしい。駅員曰く、来月から「いくらかの路線を復旧させる」ということになっているらしいが、褐色に錆ついたレールや、雑草の生い茂った線路の上で無邪気に凧上げをする少年を見ていると、とてもじゃないが来月から新しく列車が走り出すとは思えない。

しかしその反面、なぜか廃駅を新しくしてあったりもするのがよくわからない。今後、フィリピンの鉄道事情はどうなっていくのだろうか。

現在残っている路線も、マニラから南へ約40キロ、所要時間約一時間の区間を一日に20本ほどの列車が往復している程度。

しかし驚いたことに、車内は常にすし詰め状態なのだ。需要はあるということだろうか。それならもっと路線を増やせばいいのに…。

そして、その少ない本数の合間を縫い、国の所有する線路をめいいっぱい利用した「副業」が成り立っていた。詳細は来月初旬に更新される予定の「どらく」を見ていただきたい。

さておき。

僕は今回が初めての訪比になる。

フィリピンでもセブ島などのリゾート地は別にして、日本人のマニラへの評判はアジア諸国の中でも最低の部類だと思う。売春や強盗なんかのイメージを持つ人が多いのではないのだろうか。

とにかく人気がない。こと若い女性が旅行先にはほとんど選ばない国であるように思う。

実際ガイドブックの類にしてもフィリピン関するものは極端に少ない。
僕自身も今回の撮影が決まったとき、正直、それほど心が踊らなかった。

別々の便で到着した我々は、マニラのエルミタという地区にあるホテルでおち合った。
リーズナブルなホテルの割にはガードマン、フロント、エレベーターガールなど、スタッフはみんな愛想がいい。仕事もきちんとこなす。

チェックインを済ませたあと我々はホテルの近くへ夕食をとりにでかけた。
ガイドブックはもちろん、地図すらもってない。暗い街中に灯る明かりをたよりにレストランを探した。エルミタ地区はマニラの中でも栄えているエリアだと聞いていたが、どうやら我々がウロウロしたあたりはローカルなところのようで、レストランなんかはまったく見当たらない。

10分ほど歩いたところで、ガラスケースの中に鉄製の大皿に持った料理を並べてある一軒の食堂に入った。店員のお姉さんが親切に料理の説明をしてくれる。

イカの煮物、かぼちゃやオクラなどの野菜を炒めたもの、魚の丸揚げをとり、レッドホースというアルコール度数が6.9度もあるローカルビールをたのんだ。

となりのテーブルではおじさんがピーナッツをつまみながら僕らと同じビールを飲んでいる。そうとうできあがっているらしく、片言の英語でわけのわからないことを話しかけてくる。僕らが話しこんでいても割り込んでくる。しまいにはまだ5歳くらいだと思われる息子が呼びにくる始末だ。

温め直した料理が運ばれてきた。
東南アジアではグラスいっぱいに氷を入れ、ビールを注ぐ。

小さな食堂の一見なんてことのない料理だったが、どれも美味い。おふくろの味のようなやさしさがある。

「これ、うまいすね」

と僕が言う。

「飛行機で食べちゃったからあまりお腹減ってないんだよね」といってた下川さんも

「いけるね」

と言いながらパクパクと肴をつまみ、ゴクゴクとビールを飲んでいた。

結局1リットル瓶のビールを2本飲んだところで店じまい。
会計は170ペソ。日本円で340円ほど。僕が訪れたことのある国の中でも一番じゃないかというくらいに安いかった。

いい気分になった僕らは、帰り道にふらりとバーに入った。
ママらしきおばさんが話しかけてくる。

「日本人?」

日本語だ。それも結構うまい。
なんで日本語?と聞くと、
「新浜で6ヶ月仕事してた」ということだった。いわゆるフィリピンパブらしかった。

ローカル客のヘタクソなカラオケに耳を塞ぎ、ママから四国の小さな町の話を聞き、サンミゲルビールを飲みながら我々は翌日からの旅の作戦を練った。

旅の間、嫌な思いをすることは一度もなかった。列車の中で「カメラ出さないほうがいいよ。」という気遣いを日本語でされたこともあった。とにかく皆が親切だった。

帰りの空港で、荷物検査場の職員が僕の搭乗券をチェックしながら、
「オクサン、フィリピーナ?  ン?  チャイナエアライン? チープネー。」
と面白おかしく言う。「ほっとけ」と思ったが僕もつられて笑ってしまった。

フィリピン。

料理はうまい。人はいい。典型的な「いい国」だと思った。

2010.10.10


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