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今年一年続けてきた、旅行作家の下川裕治さんとの旅が終わろうとしている。
アジア諸国を鈍行列車で巡る旅の締めくくりに、ふたたび列車大国・中国を目指した。
連載しているアサヒ・コムのどらくではベトナム、フィリピン、台湾と、暑い国が続いていたこともあり、大陸の厳しい冬が近づく中国東北地方を選んだ。
旧南満州鉄道。現在の中国東北地方の大連から長春を結ぶ鉄道である。

初日の夕方に大連駅からほど近いホテルで落ち合った僕らは、ぶらぶらと歩きながら満州時代の旧跡を見て回った。神田の古本屋で下川さんが見つけた大正時代の文献と、現在の大連市内地図を交互に睨みながら、当時の料亭や旅館の建物が残ってはいないと探してみた。古い文献は相当緻密にできており、目的地を探すに苦労はしなかったが、有名なヤマトホテル(現在の大連賓館)や旧満鉄本社を除いては、たいしたものは見つからなかった。

満州から引き上げた後、もう60年以上が経っているのだ。しかも世界一のスピードで発展し続けている中国。古い日本の木造家屋が残っているはずはなかった。

それでも僕たちは大連の町中、ロシアや日本の痕跡をしっかりと見ることができた。何せ世界にもほとんどない、日本の統治下にあった場所なのだ。文献を読み解き、当時の雰囲気を噛みしめながら「外国の日本」を練り歩くという作業は、なかなかできない旅のひとつの楽しみ方である。

やがて日没。寒空の中を歩き疲れた僕らは、夕飯に火鍋をつつくことにした。

大連の火鍋は有名な重慶や四川省のそれとは別物である。まず、スープが辛くない。辛いのを選ぶこともできるのだけれど、重慶のあの真っ赤なやつほどではない、辛さの苦手な人でも食べられるピリ辛というところだ。

重慶の火鍋しかり、北京のしゃぶしゃぶしかり、中国では鍋の主役はだいたいにおいて羊肉が好まれる。しかし大連の火鍋屋のメニューには羊肉はあまりなく、色んな種類の牛肉が並んでいる。
僕は四国の生まれで、肉といえば牛肉の文化で育ったものだから、これには少々うれしくなった。

しかし、なんといっても主役は海鮮である。
刺身でも食べられるほどに新鮮なエビの殻を剥き、包丁でたたいてすり身状に仕上げた「蝦滑」なる逸品。スプーンで一口大にすくい、ぐらぐらと沸いたスープの中に放り込む。
ツヤを帯びた団子が浮いてきたら、カキ醤油のような深みのある醤油ベースのタレにつけて食べる。芳醇なエビの香りにプリプリの食感。絶品。

後に、日本が国際連盟から追い出され、敗戦の一途をたどる大きな原因となった満州帝国。建国に夢を見た日本人たちも、極寒に耐え、故郷を思いながら鍋を囲んだのかもしれない。

今中国では、旧満州帝国は「偽満州」と言われている。
満州帝国は国として認められていないということになる。

2010.11.25


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