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初めて羽田から国際線に乗った。
今年最初の渡航は羽田からソウルの金浦空港へ。

羽田は成田に比べて空港内での移動が楽だと聞いていた。
たしかにチェックインカウンターはすぐだし、規模が小さいゆえにイミグレを抜けて少し歩けばすべてのゲートへも簡単にたどり着く。成田のようにシャトルに乗るということもない。

しかし、国際線の新しいターミナルがオープンしたとき、飲食店など施設の内容がずいぶん話題になっていたが、別段どうってことはなかった。いつも空港で特に何かするわけでもないからどうというわけではないのだけれど、なんとなく成田のほうが旅立つという感じがするなぁと思った。

着陸前の機内アナウンスによると、ソウル市内の気温はマイナス6度。
降り立った懐かしの金浦空港は、なるほど、東京よりだいぶん寒い。
タクシーの窓越しに久しぶりの漢江が見える。どっしりと構え、まるで大都市ソウルを抱きかかえているようだ。かっこいい。

市街へ出てまもなく、思いきり雪が降ってきた。

韓国に限らず冬の寒さが厳しいところには暖房設備がしっかりとなされているものである。だからどこへいっても室内はちゃんと温まっている。しかし東京の電車やデパートのように暖かすぎるということはない。外へ出るたびに「うぅぅぅ、さぶっ」などという情けない声を出しながら、初日の仕事を終えた。

ホテルに機材を置いてから、地下鉄に乗った。
昼間見た漢江を、夜も見てみたいと思ったのだ。

ソウルの地下鉄は旅行者には不便な点がある。切符を買うのに、いちいち500ウォン(約35円)のデポジットがかかるのだ。電車を降りるたびにカードを機械に差し込み、500ウォン硬貨を返してもらわないといけない。この作業が非常に面倒くさい。スイカのようにいくらかチャージするという買い方もできるのだが、短い滞在中にあと何回地下鉄に乗るかもわからないのだから、それはそれで抵抗がある。

そのシステムをてっきり忘れていた僕は、デポジットが入ったままのカードで次の切符が買えるものと思いこんでおり、何度やってもうまくいかない自動券売機の前で「おかしいなぁ」とつぶやきながら首を傾げていた。

横から何者かが僕の肩をたたいた。見れば20代中ごろの美女が立っている。僕らはお互いに目を見合わせたあと、彼女は手に持っている何かを僕の方へ差し向け、にっこりと笑った。

iPhoneだった。

こちらへ向けた画面には「使い捨てですよ」と日本語で表示されている。そしてまたおもむろに画面をタッチし、瞬時に「返金しますか?」という画面を見せてくれる。

そのあとはあれよあれよという間に返金を済ませ、新しい切符を手に入れた。彼女が笑顔のまま去っていくまでに僕が発した言葉は、別れ際の「カムサハムニダ」だけだった。

僕は携帯電話には通話とメール、それに海外でのローミング機能がついてさえいれば、あとは薄ければ薄いものほど、軽ければ軽いものほど良しとしてきた。しかしこのたびのiPhone翻訳アプリの一件、目から鱗であった。

恐るべし、iPhone。

しかしそういえば、一連のやりとりの間に、あの美女の声を一回も聞いていない。

2011/1/12  ソウル


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