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一昨日、仕事が少し落ち着いてきたので、青木由香さんに電話してみた。
「もしもし、中田です。ごぶさた。台北なんですが忙しいですか?」
「だいじょうぶ。会いましょ。」
「何食いましょか。」
「行ったことがないとこがいいよね。夕方までに考えときます。」

青木由香はエネルギーを絵に描いたような人である。とにかく、感心するほどに笑顔を絶やすことがない。
青木さんとは5年ほど前から台北に来るたびに、仕事をしたり飲んだりのつきあいが続いている。初めて会ったのは、台北の永康街で準備を進めていた、彼女の個展会場におじゃましたときだったと思う。そのとき青木さんは壁に掛けたばかりの作品の前でドキュメンタリー番組のインタビューを受けていた。ノンフィクションならではのシャープな質問に、塗料のついた服を着たままの彼女が、満面の笑みで応える姿が印象的だった。

夕方、思っていたよりも仕事が早くはけた。腹も減っていた。

「僕はまだ一週間以上いるから台湾料理じゃなくていいですよ。それよか青木さん、日本食恋しいでしょ。行く?」
「うん。食べたい。スシならいいところがあるけど。」
「よろこんで。何処?」
「中山路のロイヤルホテルの向かいの裏道を入ったところ。予約するよ。」
「オーケー。ありがとう。」

という具合にサクサクと決まってしまった。僕はかなり優柔不断なほうだから、こういうテンポは非常にありがたい。電話の向こうにあらためて青木さんのパワーを感じた。
泊まっているホテルから約束した寿司屋までは2キロとちょっとという距離だった。歩いていけばちょうどいい時間に着けそうだった。仕事道具を部屋に置き、カメラをぶら下げてホテルを出た。

通りの両側に看板が並ぶ台北の街。ここが何路なのかさっぱりわからないほど、どの通りも景色は酷似している。それぞれの通りにそれほど特色はない。でも僕は、そのいつまでも街が終わらないように見える台北の町並みが結構好きだ。
少し歩くと日本人ビジネスマン御用達の林森北路の交差点が見えてくる。案の定日本語の看板がやたらと目立つ。マッサージ店の中からは日本語が飛んでくる。

カウンター越しに台湾人職人の鮮やかな手さばきを見ながら、僕たちは近況を話し合った。そのあいだ、青木さんさんはもちろん笑いっぱなしだった。寿司をつまみ、酒を飲み、気がつけばかなり長い時間が経っていた。


今までも会うたびに何かしら新しいことに挑戦している青木さんだったが、どうやら彼女は今年、今までになく大きな出来事を控えているらしい。青木さんのポジティヴな思考に刺激を受けつつも、バカ話に笑い転げる台北の寿司屋での有意義なひとときだった。

店を出るころにはすでに日付が変わろうとしていた。
来たときと同じ看板の裏側を見ながら、ゆっくりと歩いて帰った。


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