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去年から旅行作家の石田ゆうすけさんとちょくちょく食べたり、飲んだり、仕事したり、野球を見に行ったりしている。

先週帰っきたカンボジアも一緒だった。
石田ゆうすけ氏は20代後半から7年半かけて世界一周した、筋金入りの旅人である。
年齢は僕よりいくつか上で、良いお兄ちゃんというかんじで、海外取材でもなんとなく身内とバカ騒ぎしにきたという気になってしまう。さらにゆうすけさんは食べ物のことにめっぽううるさい。僕も食べることが大好きだから、一緒に取材に出たときに、いかにうまいものを食べるかを議論するのが楽しくて仕方がない。

今回はカンボジア人の通訳ナムさんが基本的に毎日同行してくれたのだが、移動中ずっとナムさんは現在のカンボジア事情の質問攻めにあうことになる。
二年前の選挙のことなどは、目からウロコであった。なんと与党である国民党は選挙で負けたにも関わらず、ダダをこね、軍を使って野党党員の自宅まで出向き、圧力をかけて翌日には「わしら、国民党の勝利とあいなりました」とイケシャーシャーと宣言したのである。無論、その始終は海外には報道されていない。
次の選挙は再来年。
見ていると、次回はまず野党の圧勝になるだろうという雰囲気だが、なんとフン・セン氏はベトナム人を移民させて自身の支持者数に仕立て上げ、着実にその数を増やしているらしい。これはもう、選挙うんぬんの話ではなく、完全な独裁である。
ふたつほど前のブログでカンボジアに対する一抹の不安を書いた裏にはそういった背景がある。

話を石田ゆうすけ氏に戻す。
カンボジアではメガネっ子をほとんどみかけない。ゆうすけさんがなにげなくそのへんのことを訊くと、
「カンボジア人は目がいいんですよ。あと、日本人はパソコンばっかりでしょ」
とナムさんが言うものだから、僕が「けど、日本の戦後間もないころの写真見ても、メガネかけてる人は多いよ」と何気なしに返した。
ナムさんが何か言いたそうに、でも言えないでいると、絶妙のタイミングで
「本読むの?カンボジア人は」
と、ゆうすけ氏はインコースに食い込む速球のような一言をあっさりと言い放った。もちろん悪気はない。

それからナムさんは日本語がちょっとおかしくなりながら、いかにカンボジア人は本を読むかということを力説した。が、どう贔屓目に聞いても、あまり読書好きの民族とは思えなかった。

「移動図書館もあるんです!1時間!」
「どういうこと?」
「本を載せた車が町を回ってくるんです」
「うん。それはわかる。1時間とは?」
「そこで、1時間待ってるんです!」

ゆうすけさんと顔を見合わせた。
要するに「移動図書館」とはいうものの、本を借りることはできず、車が来るとその場で本を選んで読み、一時間経つと返すというシステムらしい。
続きは次回のお楽しみ。
なんだか紙芝居のようだ。

1週間の取材を経て無事成田空港に降り立った僕らは、「雨やねぇ」とか「やっぱちょっと涼しいねぇ」などと気楽なことを言っていたのだが、手荷物受け取りのベルトコンベヤーに、荷物の代わりに「イシダユウスケ様、ナカタヒロシ様」と書かれた紙が貼り付けられた箱が回ってくるのを見つけた。
ロストバゲッジである。
これまで何度となく飛行機に乗っているが、二人とも初めての経験だった。

翌日届くということで、宅配の発送手続きをして、最後の税関を抜けようとしたところで、「荷物の中身は?」とか「他にご家族は?」などとちょっとした質問を受けた。どうってことはないが、いつも何も聞いてこなに税関係員だけに、ちょっと意外ではあった。もしかしたら、寄託手荷物遅延を装った何か密輸がらみの犯罪があるのかもしれない。

となりのレーンで何やら言っているゆうすけさんの声が聞こえてきたので、同じことを訊かれているんだなぁと思いながら先に出口へ向かった。

ようやく到着ロビーに出たところで、ゆうすけさんに「やっと帰ってきましたね」と言うと、

「いや、家族って訊かれてやぁ、思わず『結婚してます!妻がいますよ!』って返してもた…」
と、顔を真っ赤にしていた。

このような人が書く本が、面白くないわけがない。

2016.9.28 東京


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