5年ぶりに香港に来ている。
佐敦(ジョーダン)駅近くに滞在していて、九龍の中心部であるこのあたりでは食べることに事欠かない。
2階にあるメインレストランがこのホテルの朝ごはん会場になっているだが、毎朝、エレベーターを2階で降りていく宿泊客を見かけると、正気かと首をかしげてしまう。香港に来て、2000円もするうまくもまずくもない朝食ブッフェなど無粋の極みである。
九龍のメインストリートである彌敦道(ネイザン・ロード)の西側2本目に平行する白加士街に「澳洲牛奶公司」というガイドブック各誌でも取り上げられている牛乳プリンの有名店がある。
ここの三文治(サンドイッチ)がうまいと聞いていたのだが、夕方前を通ると数十人の列ができていた。
「朝から行列ですが、7時半の開店前に行ってください。シャッターをくぐるんです」
ここのサンドイッチがおいしいと教えてくれた人は、ニヤリと笑ってそう付け加えた。
翌朝、7時前にホテルを出る。まだうす暗く、道路に突き出す飲食店やマッサージ店の看板にはまだネオンが灯っている。
澳洲牛奶公司の前までくると、半分下りたシャッターの奥からは蛍光灯の明かりがもれていて、いかにも「まもなく開店、しばし待たれよ!」という雰囲気である。
おそるおそる腰を折り、店内を覗くと、出勤前のビジネスマンや、新聞を広げるおじいちゃんが茶をすすり、パンをかじっている。
ほんのりあたたかい食パンは香ばしくふわふわで、想像していた中華圏特有の妙に甘く硬いそれとは明らかに違っていた。
コーヒーと紅茶をミックスした鴛鴦茶にたっぷりの砂糖を入れるて一口すすると、「嗚呼、我香港に来たり」と思わず目を閉じてしまう。
うまいものは好きだが、行列に並ぶのは御免こうむりたい。
そういう方は、躊躇せずに半分閉まったシャッターをくぐっていただきたい。
2017.2.22 香港