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台東から船で蘭嶼島に渡るつもりだったのだが、出港が7:30の1日1便だけ(週末など、日によっては13:00便もある)ということで、台東で一泊せざるをえなくなった。
台東の町中に泊まることも考えたが、翌朝も早いことだし、フェリーターミナルに近いほうがいいだろうと、駅を出たところで待っていた富岡港行きのバスにかけこんだ。

バスを降りると、まずは宿を探すべく大通りのほうへ。
暑い。やはり宜蘭よりだいぶ暑い。
この暑さではそうウロウロしてられんなと、あたりの民宿を当たってみるも、誰もいなかったり高かったりでなかなかザックを下ろせない。
結局は大通り(花東海岸公路)まで出て、セブンイレブンのそばの1階がコインランドリーとカフェになっている、よくわからない名前の宿に落ち着いた。
良心的なおかみさんは2階にある3ベッドのドミトリーを、僕一人に1ベッド価格の500元(1900円)で貸してくれるという。「他に誰か来たら、相部屋でおねがいね」とは言うものの、もう誰も来ない時間帯であることは、おかみさんの笑顔から読み取れた。
今回の旅は1泊1000元を上限と決めている。トイレ、シャワーが共同であることを差し引いても、500元はありがたい。

荷物を置き、洗濯をして宿の裏の物干しに干すと、みるみるうちに乾いていく。
爽快な風に疲れはふっとび、港のほうへ歩いてみた。

一昨年から昨年にかけて日本国内の市場食堂を回る取材を続けていた。富岡の港町はそのときに見た四国や東北の田舎の漁村を彷彿させる。
港まで行くと、明日乗るフェリーターミナルは閉まっていて、その先には魚を売る露店が出ていた。
近所のおばさんが夕飯用にサバを買いに来ていたり、居酒屋の大将風のおじさんが大きなカツオをぶら下げてバイクで去って行ったりと、夕市の風情に満ちていた。
そして、あろうことか露店の横には「漁港小吃」なる港食堂が見える。
ちょうど夕飯の時間である。
店の前に並ぶ魚介類はどれもピカピカしている。
ふっくらした小巻(小イカ)を焼いてもらい、ビールをとった。
「この花枝丸(イカ団子)、おいしいよ。うちの自家製よ」
イカづくしになってしまうと思ったが、そう言われると気になってしまう。
ちょっと多いかなぁと思ったが、残ったら持って帰ればいいことだ。
たしかにその大ぶりの花枝丸は弾力があり、旨みたっぷりで、中にはイカの身がゴロゴロ入っていた。
次々と客が入ってきては魚を見定めて注文していく。
ひとりだと種類が食べられないのが辛いところである。

翌朝早く、朝食を買いに下に降りると、おかみさんはもう掃除の最中だった。
「おはよう。まだ朝は食べないほうがいいわよ。船が揺れるかもしれないから」
そう言うと、笑いながら小さく吐く真似をした。

そろそろ港へ行く時間かと外へ出る。
「そんなリュックじゃ歩くの大変でしょ。港までどうぞ」
おかみさんは「はい!」とヘルメットを放り投げてきた。
「ここの景色がいいのよ」とわざと岸壁沿いを走ってくれる。
バイクだとほんの5分の距離だが、歩きでは味わえない心地よい風に吹かれた。
ターミナルで切符を購入し、外に出るとおかみさんがまだいる。

「これ、飲んどきな。1回2錠」

実は僕は船に弱い。
「船が揺れるかも」と言われたとき、もしかしたら僕の表情が曇ったのかもしれない。
おばさんに別れを告げると、まもなく蘭嶼島行きの小さなフェリーが接岸した。
港の売店でサンドイッチを買い、船着き場へ向かった。


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