フォトグラファー中田浩資のウェブサイト / Hiroshi Nakata website

  • Gallery
  • Blog
  • About
  • Contact
  • Buy Prints
  • note

日本, 旅記

北海道

マリモに罪なし

釜山から帰国した翌日、ライター氏と釧路空港へ飛び、レンタカーで阿寒湖へ向かった。 何度か訪れている北海道だが、道東は未踏の地であり、夏の北海道というのもこの度が初めてだった。夏とはいえ8月の末ともなると、朝夕はフリースが […]

03 10月
2017

nakata

« 港町ホルモン
カフェもアリアリである »

Read More

Placeholder image

奈良へ

15年ぶりの奄美の夜

15年ぶりの奄美の夜

玉ねぎソースと野焼きの香 

玉ねぎソースと野焼きの香 

西伊豆は雪見の鮑

西伊豆は雪見の鮑


238

Share

釜山から帰国した翌日、ライター氏と釧路空港へ飛び、レンタカーで阿寒湖へ向かった。
何度か訪れている北海道だが、道東は未踏の地であり、夏の北海道というのもこの度が初めてだった。夏とはいえ8月の末ともなると、朝夕はフリースが必要なくらいの肌寒さになる。

メイン道路を挟んで阿寒湖の逆側にせり上がる、冬場はスキーゲレンデになる緑一色の斜面を登れば、澄んだ空気と爽やかな風の向こうに雄阿寒岳と阿寒湖が一望できる。

阿寒湖周辺にはこういった眺望ポイントや散策コースがいくつもあって、僕らは撮影場所を求めて、3日間でできるかぎり色々と歩いてみた。
遊歩道が朽ちていたり、分岐点に看板が出ていなかったりと、なかなかに不自由する場所があり、「これって、散策じゃなくて、探検ですよね」などと笑えない冗談を交わしながら森の中をかき分けながら歩いた。
なかでも阿寒から車で30分ほどの足寄町にあるオンネトー湖の周遊コースと、阿寒湖東端の太郎湖、次郎湖へ分け入る道なき道にはちょっと難儀した。とても気軽に散策というわけにはいかない悪路である。
観光案内所の係員は涼しい顔をしてこのあたりのルートを勧めてくるが、そんなことで大丈夫なのだろうか。
観光客の多くを占める年配の方々が、何も知らずにふらっと入りこんでしまうと思うと、少なからず不安になる。
僕らも念のためのトレッキングシューズを履いていなければ、迷わず途中で引き返しただろう。

ただ、幸いなことにというか残念なことにというか、どのスポットへ行ってみても人の姿が見当たらない。
阿寒湖が一望できるゲレンデのあたりには二度にわたって上がってみたが、まったく人影がなかった。ここは手軽に行ける良いポイントなのに、実にもったいない。
人の姿を見たのは、オンネトー湖の車道に面したウッドデッキの見晴台と、土産物屋と食堂が10軒ほど並ぶアイヌコタンくらいで、それもチラホラである。
まだシーズン真っ只中で、ホテル周辺にはそこそこ人がいるのに、みなさんどこへ行っているのだろうかと3日間ずっと不思議だった。

阿寒湖のほとりには、大箱のホテルがいくつかあり、近くにはかつて賑わっていたであろう飲食店街があるのだが、今となってはほとんどの店の看板に電気が灯ることはない。

夕食がてら、辛うじて暖簾を出していた炉端焼屋に入ってみた。
長い間老夫婦で切り盛りしているこの店は、雰囲気も味も悪くないのだが、いまいち覇気のようなものが感じられない。
ししゃもや椎茸をつまみに2本目の熱燗をたのみつつ世間話をしていると、ご主人のか細い声をかき消すように10人ほどの騒がしい連中がドカドカと入ってきた。
ドアの向こうから聞こえていた大声は、静かな店内に入っても止むことはない。日本語ではなく、北方なまりの中国語である。
通訳ガイドの若者が右往左往しながらとりまとめた全員の注文を店主に伝えると、そそくさと出て行ってしまい、そのあとは、年季の入った純和風の店内で、浴衣を着込んだ女性たちによる撮影会が始まった。
そういえば、僕の泊まっているホテルにもレンタルの浴衣が置いてあった。
主人は、カウンターの外はチラリとも見ず、黙々と炭をくべ、魚を焼いていた。

一昔前、北海道のツアーといえば阿寒湖を外さない時代があったらしい。
団体客がわっと押し寄せ、欲を出したホテルは別館を建て増し、山海の珍味と称した子供だましのバイキングで大量の客をさばいた。
バイキングに物足りず飲食街へ繰り出していた30年前の若者は、今では阿寒湖の展望スポットを素通りするようになり、阿寒湖とオンネトー湖の淵にチラッと立ち寄って、釧路や帯広の宿に帰っていくツアーも少なくないらしい。
そのかわり、大陸からやってきた若者が別館の空室を埋めているようだ。

ただ、それも近い将来、状況は変わるであろう。
もはや温泉とマリモだけで客が呼べる時代ではない。
緑のゲレンデがスマホを構えた若者でごったがえし、オンネトーの周りには遊歩道が張り巡らされ、東京から帰ってきた息子が炉端焼屋の老夫婦を支えながら盛りたてていく。
そんな阿寒湖を見てみたいと、そう願うばかりである。

 


238

Share

About Author

nakata

コメントを残す コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


Most Recent

Placeholder image

奈良へ

15年ぶりの奄美の夜

15年ぶりの奄美の夜

玉ねぎソースと野焼きの香 

玉ねぎソースと野焼きの香 

西伊豆は雪見の鮑

西伊豆は雪見の鮑

日奈久

日奈久

手取川発酵街道

手取川発酵街道

アーカイブ

Copyright © 2022 フォトグラファー中田浩資のウェブサイト / Hiroshi Nakata website.