昨日、茨城は笠間にある、春風萬里荘へ取材にでかけた。
車を止めて入口へ目をやると、門のまわりが華やいでいる。
今年は暑さ寒さが不安定で、例年より少々遅れつつも、見事な紅葉が始まったようだ。
十分見ごろにはなっていたが、まだ色が変わり始めたばかりのもみじも数本あり、もう1週間もすれば最高の状態になると、主任学芸員のSさんがおっしゃっていた。
「春風」という名でありながら、紅葉の時期がもっとも美しいとのこと。
石庭を臨む縁側に出たところに、なにやらちょこまかと動くものがある。
Sさんが「わー!」と声を上げるが早いか、ひょいと持ち上げ、手のひらに乗せた。
なんと、脱皮したてのちいさなヤモリである。
このような粋な場所で、ひとつ成長を遂げたばかりの「家守」に出会うとは、これはもう吉相以外のなにものでもない。
さて、もともと北大路魯山人の住居だった春風萬里荘。
玄関を入って三和土の左手には魯山人こだわりの洋間があり、こげ茶を基調とした温かみのある室内には暖炉が据えられていて、洋室ながら茅葺屋根の日本家屋に見事にマッチしている。風呂場の壁に埋め込まれた竹を模した陶器や、洋間の奥にある男子トイレの便器には魯山人の遊び心が存分にうかがえる。
「ちゃんと立ち入り禁止の札を出しとかないと、ついつい用を足してしまうお客さんがいるんですよ」
一同大笑いではあったが、実際に便器を見るや、その気持ちが実に実によくわかるのであった。