PCR検査の陰性結果を持って、四国へ。
故郷、徳島。
とはいえ、生まれ育った徳島市内はスルー。取材の一環で勝浦群上勝町(かみかつ)に滞在する機会を得た。
山間部にある、美しい景観に囲まれた小さな町である。
上勝町は言わずと知れた葉っぱビジネス「いろどり」の町。
「いろどり」とは、主に高級料亭で料理のあしらいに使われる「葉っぱ」を栽培し、全国に出荷することで年間2億円を超える売り上げを誇るベンチャービジネスである。栽培に従事する農家の大半は高齢者で成り立っている。農家さんに富と夢をもたらす、現代社会おける理想的なビジネスモデルだと言える。
上勝は「ゼロ・ウェイスト運動」でも広く知られている。
ウェイスト(無駄)をゼロにする運動には色々な取り組みがあるらしいが、有名なのはゴミの分別だろう。
その数、なんと45種類。僕がこの運動を知った十数年前はたしか32種類だったから、年々分別の基準が細かくなっているようだ。
上勝町の一般家庭に、ゴミ収集車が来ることはない。
家庭ゴミは、町の中心にある「ゴミステーション」に各自が持っていき、決められた分別基準に従って処理する。
「徹底」のひと言に尽きる。
その活動が広くメディアに取り上げられ、近年は都会からの若い移住者が多く集まっているとのこと。
どうりで、四国の山の中にしてはやたらと標準語を耳にする。
しかしながら、次々とゴミステーションに軽自動車が集まってきては、せっせとゴミを分別する町のおじいちゃんおばあちゃんを目の当たりにし、取材を進めるなかで素朴な疑問が生じた。
「45種類に分けられたゴミの行方」である。
取材対応してくれたスタッフの女性は、首都圏で生まれ育ち、都内の有名大学を卒業したのち昨年の新卒採用で上勝に移住してきたのだそうだ。
彼女に訊いてみた。
「たとえば、このペットボトルですが、ここに集まった物の中でリサイクルされる割合ってどのくらいなんですか?」
「……といいますと?」
「分別したものがすべてリサイクルされるとは限りませんよね?それともこれらは全部何かに生まれ変わっているのでしょうか?」
「……そのあたりのデータは持ち合わせておりません」
「ということは、実はこのペットボトルの大半が最終的には焼却処分されている可能性もゼロではないということでしょうか?」
「そうではないはずだと、思っております」
リサイクルには多大な費用とエネルギーが必要でとされる。上勝町に限らず全国で分別されたゴミのうち、どれくらいがリサイクルされているのかを正確に知るのは色んな意味で困難である。
上勝のゴミ分別基準からいくと、たとえばハッピーターン(米菓子)を個包装したセロファンの内側も洗剤と水で洗い流して脂分を落としてから、ガソリンを蒸してゴミステーションに向かい、しかるべき分別処分をする必要がある。
ちなみに、摂氏2000℃を超える最新の焼却炉では多岐にわたる廃棄物が最小限のコストとロスで処分できるという報告もある。
分別=リサイクルではない。
無論、分別=エコロジカルというロジックは成り立たない。
翌朝、オシャレな宿で出されたのは、焼きたてのベーグルに小松島名物フィッシュカツと地元野菜を挟んで食べるサンドウイッチ。
噛みつくと、カツの衣がポロっとこぼれ落ちた。
思わずボックスティッシュに手が伸びそうになったが、思いとどまった。
「ゴミが出てまう」
自前のハンカチで拭い、散らばったカツの衣を包み込む。
もうひとくち。
食べ方が悪いのか、またポロポロとこぼれる。
いっそ食べるのを止めようかと思ったが、食べ物を残すのは得意じゃないし、それこそ生ゴミの塊である。
テーブルと床をハンカチで丁寧に拭き上げ、上勝をあとにした。
余談だが、徳島市内出身のご主人が腕を振るうイタリアン「リストランテ・ペルトナーレ」の味は、紛れもなく本物だった。